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11歳の私がついた嘘

小学5年生の時のことですが、既に他界している父と一度だけ、二人で外食をしたことがあります。

ある土曜日の昼下がり、私は父の勤め先だった市の施設に届け物をしに行ったのですが、父が、どういう風の吹き回しだったのか、「昼めし食べに行くか?」と誘ってくれたのです。
そんなことを言う父ではなく、実際初めてのことだったので 私はすごく驚き狼狽えましたが、またとないことだと思い「行きたい!」と言ってみせると、父は隣接する公会堂の中にあるレストランへ連れて行ってくれ、「好きな物を頼みなさい」と言いました。

渡されたメニューにはたしか、日替わり定食、うどん・そば、スパゲティー・ミートソース、カレーライス、サンドウィッチ・・・というかんじのものが並んでいましたが、下の方に「オムライス」とありました。

・・・憧れのオムライス!

私は、燦然と輝いて見えたその「オムライス」を選び、生まれて初めてオムライスというものを食べたのでした。

ですが残念ながら、そのオムライスは、どうにもこうにも美味しいとは言えない酷いものでした。
どれだけ不味いかって、それを喉奥に流し込むために大量のお水が必要なくらいのもの、空腹だったのに完食するのが大変だったほどのものだったのでした、あれはいったい何だったのだろう・・・。
それでも私は、初めてオムライスというものをレストランで食べたこと、そして何より、初めて父が私をレストランに連れて行ってくれたということが嬉しくて、父に何度も「美味しかった!」「どうもありがとう!」と伝えました。

帰宅すると、母が父の居ないところで私に、何を食べてきたのか、味はどうだったのかと尋ねてきました。
私は「う~ん・・・、中身のチキンライスはあんまり美味しい味じゃなかったんだよね・・・」と母に伝えたんですね。残念ながら美味しくはなかったんだということを正直に、こっそり、内緒話として。

でもその晩のこと。
父が夕飯の席で「あかりは今日、レストランでオムライスを食べたんだよな」と言ったので、「うん、美味しかったなぁ~」と笑顔で言うと、なんと母は、大きな声でハッキリこう言ったのです。

「あら、なによ、まずかったって言ってたじゃない!」

・・・・・・!!!

もう、驚いたし焦ったし悲しくなって、私、俯いてちょっと泣いてしまいました。
父は、ついていたテレビから流れて来るプロ野球中継の戦況の方を気にしていたせいか、母の言葉や私の様子に対して何かを言うことはなかったので「助かった・・・」と思いましたが、私の心の中はほんとに動揺と混乱と母に対する怒りでいっぱいでした。

今日のお父さんとの思い出が、もう台無しだ、
お母さん、内緒の話だったのに言っちゃうなんて酷い・・・
お母さんは、なんて気遣いが無いんだろう、なんて無神経なんだろう・・・
ああ、お父さん、せっかく連れてってくれたのに・・・
お父さん、怒ったかな、がっかりしただろうな、どうしよう・・・

そしてその日、布団に入ってもいろいろな感情で寝付けなかった私は、幾つかのことを強く思い、幾つかの決意をしたのでした。

それは、
お母さんという人は本当に無神経だ、思慮深さに欠ける、信用できない、ということや、
思ったことをそのまま口にするのはもうやめよう、他人をがっかりさせることは絶対に言わないようにしよう、ということや、
これからはお父さんをうんと喜ばせなくちゃ、ということでした。
(※この「お父さんを喜ばせなくちゃ」という強迫的な思いのために私は、父の望みであったバレーボールの選手にならねばと考えて、少しもやりたくなかったスポーツ少年団でバレーボールに励み活躍し、中学校も越境入学をしてバレーボールの強豪校へ入り・・・ということになります・・・。)

人によってはどうということのない この「オムライス事件」、私にとっては重要な原体験のひとつになりました。
予め、見捨てられ不安というものを持っていたところに、この小さな事件が起きて、勝手に「もうダメだ」「これ以上親をガッカリさせたら大変なことになる」「親を安心させなくちゃ」「喜ばせなくちゃ」と思い込むことになったわけなのですが、
私はあれを境に、自分の素直な感覚や感情を表すことにとても憶病になり慎重になりましたし、「自分の気持ち」とか「ありのままの私の感情」とかを言われても困ってしまう私になっていきました。
また、常に緊張して構え、何かあればたちまち「罪悪感」に囚われて いじける・・・という癖を身につけていきました。
なぜかあの「オムライスが美味しい、というのが嘘だったとバラされてしまったこと」は私にとって、すごく恐ろしい出来事だったんですね。
私の大事なもの(ほぼ、他に探しても見当たらない「父との幸せな時間の思い出」)を母に壊された、という怒り、傷つきも、相当なものだったと思います。

この話は昨日、父子家庭で育ったというお客様が「お父さんが遠足の日に一度だけ作ってくれた不味いお弁当」が嬉しくて、美味しかったよと嘘を言った、というお話をしてくださったことで思い出して、書きました。

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