Netflixで観られるようになっていたので、『エルピス ー希望、あるいは災いー』(全10話)を再視聴しました。10日間1話ずつ、”夜更けの楽しみ” にして。
昨年放送されたときに観て、録画でも観て、そして今回3回目の視聴です。『カルテット』とか『アンナチュラル』などもそうですが、ときどき出会える「何度も見返す名ドラマ」です、私にとって。
このドラマは、スキャンダルによって落ち目となった、元人気女子アナ・浅川恵那(演:長澤まさみさん)、裕福な家庭に育ちエスカレーター式で名門大学を出てTV局に入った若手ディレクター・岸本(演:真栄田郷敦さん)が、若い女性の連続殺人事件の冤罪疑惑を追うことになるなかで、見失いかけた自分の価値や情熱や希望を、取り戻していく…というお話です。
死刑が確定してしまっている事件の「冤罪」を暴いて真実を追求していこうとする彼らの行動は、会社(テレビ局)そして国家権力を前にしてはあまりにも弱く、ほんとに「どんな敵がいるかも知らずにジャングルの中で棒き切れ振り回しているバカな子ども」のよう…、何度も障害や挫折に見舞われます。
でも、彼らが普段は蓋をして向き合わずにいるものが、直面する出来事によって掻き立てられ駆り立てられていく・・・。
これ、年を取ってきた私にとっては特に、とても眩しく愛おしいものとして感じられるものなのでした。
新人ディレクター岸本(20代)と、落ち目の女子アナ浅川恵那(30代)。
若い彼らにも、それから、初めは彼らを嗤っていた50代のプロデューサー・村井(演:岡部たかしさん)にも それぞれに、社会に、組織に、折り合いをつけて収まっているために、諦めてきたもの、抑え込んで沈めてきたものがあったはずです。
でも、成り行きとはいえ諦めずに事件を追う彼らが、それぞれ己の中から迸らせた〈本物の思い〉にはパワーがありました。
恵那が言うように、「多くの人の中に良心が眠っていて、チャンスを待ってる」「救えるものを救いたいって思っている人はいる」というのは本当で、それを信じて闘う人は、なんと尊いんだろう…と思いました。
「エルピス」というのは、古代ギリシャ神話で 「開いたパンドラの箱に最後に残された希望(もしくは災いの兆候)」を言うのだそうですが、私は、登場人物たちの格闘に、希望を見ました。
いまの日本って、政治も、マスコミの仕事っぷりも 「酷いなぁ」「そりゃないでしょう」と言いたくなることばかりです。よくネットで見かけますが「外国だったらとっくに暴動が起きてる」「日本でも江戸時代なら一揆が起きてる」レベルだと思います。どうしたものだか・・・と唸ってしまう。
でもやっぱり、恵那が言ったように「心の中のいちばん大事なものを押しつぶされながら」は生きられないし、「多くの人の中に良心が眠っていて、チャンスを待ってる」ということも信じられるから、希望を持っていたい。
この作品、構想から実現までに6年もかかったとのことです。お蔵入りの危機も経ているそうで(そりゃそうでしょうね…という内容ですからね。オリジナル作品とはいえ「実在の複数の事件に着想を得ている」ものとのことですし、テレビ局というところや政治家の描き方も容赦なくて…)、ほんとに、よく完成させ、放送してくれたと思います、地上波で。
スタッフ、演者の皆さん全員で、ハイレベルで高熱量、心に残る面白い作品を作って届けてくれたこと・・・、そうか、これも〈希望〉なんだな…と思いました。
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