5年ほど前、我が家の西側の窓から少し遠くに見えるお宅の濡れ縁の下で、お産をした猫がいます。
そこのお宅で飼っていたわけじゃなく、たまたま安心できる物陰で産んだようでした。見たところ、まだ1歳くらいの若い猫でした。
当時、結婚を控えて自宅へ帰ってきていた娘と、私と、それぞれが気に掛けて、毎日 様子を生垣の隙間から覗き見たり、ときどきそのお宅の庭に生垣の隙間から手を伸ばして餌を置かせてもらったりしていました、そのお宅の住人の方とはお会いできなかったので、やむを得ず敷地の外から勝手に。
そのうち、どうやら子猫たちは貰われていったようですが、母猫はお産前と変わらず我が家の周辺で過ごしていて、ときどき見かけました。
ある日、我が家に網戸交換の業者さんが来てドアを開けたまま作業をしていた日でしたが、その猫、開いていた玄関から我が家に入ってきたらしく、ドアを閉められて出られなくなってソファーと壁の間に隠れていたのを見つけました。
飼い猫を相次いで亡くしていた我が家でしたので、嬉しくなってしまった娘と私は「この子、飼えないかな」「外に出さなければうちの子になるよね」などと話して様子を見ていたのですが、やっぱり近づくと威嚇するし、外へ出たがって玄関へ行くし・・・で、諦めて逃がしました。
その猫が隠れていた “ソファーと壁が作っていた隙間” が、沖縄の斎場御嶽(せいふぁーうたき)の巨岩の隙間のようだったよね・・・とかなんとか言って、それ以来、その猫のことはそれにちなんで「ウタちゃん」(” うたき ” の ” うた ” です)と、我が家では呼ぶようになっていました。
ウタちゃんは、雌猫なので行動範囲は広くなく、せいぜい100m四方のどこかの家の敷地で過ごしていて、我が家の庭に来ることもあるし、近所のお宅の屋根や物置の上で寝ていることもあるし、雨の日や寒い雪の日などは「今頃どこに・・・」と心配したりもします。
でもウタちゃんは汚れていなくて綺麗だし、栄養状態も良さそうだから、たぶんちゃんと居場所を用意してもらっているのだと思います。
いつの間にか「さくら耳」にもなっていました。私も、捕獲器を借りてきて不妊手術をしてやりたいと考えていましたが、先にどなたかが やってくれたんですね、よかった。
そんなかんじで見てきた5年ですが、先日初めて、近所の奥さんが、ウタちゃんのことを「マルちゃ~ん♪ マルちゃんおいで~♪」と呼んでいるのを見かけました。
えっ!? ウタちゃんはマルちゃんなの?
「ウタちゃんはマルちゃんって名前を持ってた!」と主人に報告した数日後、主人から出先にLINEが来て、
「ウタちゃんが室外機の上にいたから名前を呼んだのに無視されたんだけど、試しにマルちゃんって呼んだら、にゃーだって。何度か呼んだけど、毎回にゃーって返事した」「敗北感」とあり、笑ってしまいました。敗北感って・・・。
さらに数日前、2ブロック離れたお宅のお嬢さんが、「コハルちゃん、チュールあげるよー」って呼んで、塀の上から降りて来た猫が、まさかのウタちゃんでした。
ウタちゃんはコハルちゃんでもあるんだ・・・。
斉藤洋さんの『ルドルフとイッパイアッテナ』という作品に、いろいろな人からたくさんの名前で呼ばれている「イッパイアッテナ」というボス猫が出てきますが、
毛ヅヤのいい元気なウタちゃんも「イッパイアッテナ」だったのでした。
お外で生きる猫の寿命は短いですが、ウタちゃん、これからも元気で、皆に可愛がられて良い猫生を送ってね、と思います。
