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「こういうのを、なんと言うのでしょう」

いま深夜BSで『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が放送されているので、再度の鑑賞をしています。
昨年、アニメオタクの息子に勧められて観て感動した京都アニメーションの作品ですが、この間、息子と電話した時に「いま深夜にやってるんだよ。楽しみに観てるんだ」と告げたら、「母さん、好きね」と笑われました。

主人公のヴァイオレットは名前も年齢も不明、戦地で “拾われた” 孤児で、言葉を知らない少女でした。
「武器として使え」と贈られ引き取った上官の少佐のもとで、兵士として働いていました。いま、14歳くらい、という設定です。

先日の第8話。
ある戦争に勝利し平和と活気が戻った町。そこで行われている感謝祭に、ヴァイオレットと少佐は訪れています。
露店の並ぶ道で、日頃の感謝を伝えたいから何か贈り物をしたい、なんでも好きな物を選びなさい、と言われたヴァイオレットは、「何を欲しがるのが適切でしょうか?」と尋ねます。
「ドレスとかアクセサリーとか・・・」と促されたヴァイオレットは、アクセサリーを売る店で、少佐の瞳の色、エメラルドグリーンをしたブローチを見つけて足を止め、「少佐の瞳があります」「少佐の瞳と同じ色です」と言い、それを買ってもらうことになるのですが・・・。

ヴァイオレットは、その少佐の瞳の色のブローチを見た時に胸のあたりに起こる感情を表す言葉を知りません。
「これを見た時の、こういうのを、なんと言うのでしょう・・・」と胸に手を当てて、そう言いました。

また、アクセサリー屋の婦人に「どうです?美しいブローチでしょう?」と言われますが、「美しい」という言葉は知らなかった、「美しい」は「きれい」と似ている言葉ですか?と尋ね、そうだねと言われ、「美しい」という言葉を覚えます。

そして少佐に、美しいという言葉は知らなかったから言ったことはなかったが、「少佐の瞳は、出会った時から「美しい」です」と言います(そんな告白も、照れずにヌケヌケと言う、無垢なヴァイオレットです)。

その後、また戦地で、負傷し瀕死の状態にある少佐から「愛してる・・・」の言葉を贈られたきりになってしまったヴァイオレットは、少佐の残した「愛してる」という言葉の意味を知りたい、と、代筆屋の仕事、自動手記人形になるのですが・・・。

☆ ☆ ☆

この第8話の、「美しい」は「きれい」と似ている言葉ですか?とヴァイオレットが尋ねるシーンを見ていて、あるお客様を思い出しました。
カウンセリングを申し込み、来室して私の前に座ったものの、ほとんどお話ができない方でした。
私が向ける質問ひとつひとつに、ゆっくりとじっくりと、答えを探そうとしている様子でしたが、
「なんと言ったらいいか、言葉がわかりません」「その言葉はこういう意味ですか?」「モヤモヤします」「ゴチャゴチャ考えてるばっかりですみません」
と、そういう返事にしかなりませんでした。
「モヤモヤ」や「ゴチャゴチャ」を取り除いて楽になるためには、言葉が必要。そのことを強く思い知らされたケースでした。

思考は話し言葉の50~100倍ほどの速さで流れていく、と聞いたことがありますが、「モヤモヤ」や「ゴチャゴチャ」も、言語化しないと、ただ溜まって積もっていくばかりです。
悩みから解かれていくにも、言語化をすることによって、流すなり保管するなりなりが出来るのですね。

そのお客様は、生い立ちが、なんとも過酷でした。
家庭の中のコミュニケーションには「言葉」は殆ど無く、罵声と暴力ばかりが行き交う家だった、テレビは父親が投げて壊してしまってから無かったし、本も読みたかったけれど家には一冊もなかった、買ってももらえなかった、そう言っていました。

ある時、もう無理だ、通えなくなる、田舎で結婚せねば、というメールを寄越したきりになってしまった方でした。
5年ほど経ちますが、お元気でしょうか・・・
「ずっと心のど真ん中を占めてて苦しいグチャグチャしたやつ」は、言葉に出来たでしょうか・・・

 

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