家の書棚を整理しているとき、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の公式ファンブック(息子が置いていった本です)を見つけて、しばし眺め入ってしまいました。
私の『ヴァイオレット…』との出会いは、アニメオタクの息子に勧められて観たTVアニメが初めてになります。
あまりにもクオリティーの高い作品で驚き、胸を打たれ、劇場版が公開になったときは映画館へ足を運んで観たんでしたっけ。私はたぶん劇場で最高齢の観客だったことでしょう…(苦笑)
主人公のヴァイオレットは名前も年齢も不明、戦地で “拾われた” 孤児で、言葉を知らない少女でした。
「武器として使え」と “贈られ” 引き取った上官の少佐・ギルベルトのもとで、兵士として働いていました。「14歳くらい」という設定です。
13話あるうちの第8話に、こんなお話があります。
ある戦争に勝利し平和と活気が戻った町。そこで行われている感謝祭に、ヴァイオレットとギルベルト少佐は訪れています。
露店の並ぶ道で少佐から、日頃の感謝を伝えたいから何か贈り物をしたい、なんでも好きな物を選びなさい、と言われたヴァイオレットは、「何を欲しがるのが適切でしょうか?」と尋ねます。
「ドレスとかアクセサリーとか・・・」と促されたヴァイオレットは、アクセサリーを売る店で、少佐の瞳の色、エメラルドグリーンをしたブローチを見つけて足を止め、「少佐の瞳があります」「少佐の瞳と同じ色です」と言い、それを買ってもらうことになるのですが・・・。
ヴァイオレットは、その少佐の瞳の色のブローチを見た時に胸のあたりに起こった感情を表す言葉を知りませんでした。
「これを見た時の こういうのを、なんと言うのでしょう・・・」と胸に手を当てて、そう言いました。
また、アクセサリー屋の婦人に「どうです?美しいブローチでしょう?」と言われますが、「美しい」という言葉は知らなかった、「美しい」は「きれい」と似ている言葉ですか?と尋ね、そうだねと言われ、「美しい」という言葉を覚えます。
そして少佐に、美しいという言葉は知らなかったから言ったことはなかったが、「少佐の瞳は、出会った時から「美しい」です」と言います(そんな告白も、照れずにヌケヌケと言う、無垢なヴァイオレットです)。
その後、また戦地で、負傷し瀕死の状態にある少佐から「愛してる・・・」の言葉を贈られたきりになってしまったヴァイオレットは、少佐の残した「愛してる」という言葉の意味を知りたい、と、代筆屋の仕事、自動手記人形になるのですが・・・。
☆ ☆ ☆
この第8話の、「美しい」は「きれい」と似ている言葉ですか?とヴァイオレットが尋ねるシーンを見たとき、私は、あるお客様を思い出しました。
カウンセリングをご自身で申し込み、来室して私の前に座ったものの、ほとんどお話ができない方でした。
私が向ける質問ひとつひとつに、ゆっくりとじっくりと、答えを探そうとしている様子でしたが、
「なんと言ったらいいか、言葉がわかりません」「その言葉はこういう意味ですか?」「モヤモヤしますが、この気持ちはどう言えばいいのでしょう・・・」「ずっと心がゴチャゴチャで苦しいです」
と、そんなふうにおっしゃては黙り込むばかりで、数回来られましたが最後まで、気持ちを言葉にすることは、殆ど できませんでした。
「モヤモヤ」や「ゴチャゴチャ」を取り除いて楽になるためには、言葉が必要。そのことを強く思い知らされたケースでした。
思考は話し言葉の50~100倍ほどの速さで流れていく、と聞いたことがありますが、「モヤモヤ」や「ゴチャゴチャ」も、言語化できないと、ただ溜まって積もっていくばかりです。
悩みから解かれていくにも、言語化をすることによって、流すなり保管するなりなりが出来るのですね。
そのお客様は、生い立ちが、なんとも過酷でした。
家庭の中のコミュニケーションには、少なくとも「気持ちを表現する言葉」は無く、怒声や暴力、悲鳴ばかりが行き交っている家だった、とのことでした。
テレビは父親が投げて壊してしまってから無かったし、本も読みたかったけれど家には一冊もなかった、買ってもらえなかった、そう言っていました。
ある時、「田舎で結婚しなければならなくなったのでもう行かれません、でも、誰かに言葉で伝えてみたいと初めて思えてよかったです」というメールを寄越したきりになってしまった方でした。
もう10年近く経ちますが、お元気でいらっしゃるだろうか・・・
「ずっと心のど真ん中にある、苦しいグチャグチャしたやつ」が、言葉に出来るようになっていたらいいなぁ…と思います。
