50年も前の話になりますが・・・
私が通った中学校の制服は、白い丸襟ブラウスにエンジ色のリボン、膝下丈の紺色プリーツスカートに、同じ紺色のベストを着る、というものでした。
なかなかダサい制服だったのですが その原因は、ズドンとした形の(バストとウエストの部分の寸法に差がない)ベストのせいだと、ちょっとおしゃれに興味のある女子は気づいていて、こっそりお母さんに頼んでウエスト近くを摘まんで縫ってもらったりしていたものでした。
私も自分でダーツを入れて着ていました。
女子は くびれ が大事。
で、ある時、1学年上の “すごい美人で有名な不良の先輩” が着ている制服(スカートの丈が長くて、ベストも立体的で短めの作りになっていて、とっても素敵でした・・・)の「ベスト」は、学校指定の制服を扱っているお店リストには載っていない 、街はずれにある洋品店 に行くと買えるらしい、という情報をゲットしたんです。その先輩と自分の姉が同級生だ、というクラスメイトから。
素晴らしい!買いに行こう! そう決めた私は友達2人と一緒に、さっそく行ってみることにしました。
ただ、情報をくれた子が言うには、そのお店は夕方からしか開かないし、電話帳にも載ってないし、すごくわかりにくい場所にあるから、行きつけるかどうかわからないらしいよ、と言う。「気をつけて行って来てね」とまで言う・・・。
なにそれ、不気味・・・
変なことを言われて少々ビビりましたが、私たちはさっそく、部活動後、暗くなってから、描いてもらった地図を手にそのお店を訪ねてみました。
住宅街の細い路地を奥へ奥へ進んだところに、そのお店はありました。
あるにはあったのですが・・・
木戸を開けるとお店は、独特な空気の漂う、なんとも言えない不思議な空間でした。洋品店というより、洋服も扱っている雑貨店、骨董品屋。童話の絵本に描かれるお店みたいだな・・・と思いました。
年を取ったご婦人が奥から出てきて
「〇〇中学のベストね、あぁはいはい、ちょっと待っててね」
と言って、私たちの中学校のベストを3点、奥から出してきてくれたのですが、試着させてもらうとそれは、サイズを伝えなかったのに3人それぞれの体にピッタリでした。
私たちは、無事に買えてよかったね♪ と喜んで帰ってきました。
次の日、買ったベストを着て登校したら「いいなぁステキ!私も欲しい!」という子がいたので お店情報を教えたのですが・・・
その子は翌日、行ってみたけど もらった地図の場所にお店なんてなかった、と言うんです。
私は、じゃあついて行ってあげるよと言って、後日一緒に行ってみたのですが、その洋品店、ほんとにどこにもありませんでした。
確かにこの辺りだ、という場所の近くにあった小さな電気屋さんのおじさんに尋ねたら「この辺に洋品店なんてないよ」と言う・・・
そう言われてしまったら仕方ない、その日は、連れて行った友だちに謝って、狐につままれた気分で帰りました。
*
学年が変わって間もなく、背が伸びた私はそのベストをまた買いたいと思い、1年ぶりにその洋品店に行ってみることにしました。ある日の日没後、1人で。
そしたら・・・
そのお店、ちゃんとあったのです。
お店のつくりは以前来た時とは少し違っていた気もしましたが、お婆さんは同じ人で、前の年と同じように、ピッタリサイズのベストを売ってくれました。
去年来たんだけどお店が見つけられなかったんです、と言ったら、お婆さんは「ここは分かりにくいし、夕方からしか開けないからね・・・」と言うので、(なんだ、前回はやっぱり道に迷ったか見逃したか・・・だったんだな・・・)そう納得して帰りました。
でもでも、またしても後日、紹介した友達が行ってみたところ「やっぱり無かったよ」と言うので、んんん? 一体なんなんだ? 気味悪いな、と思いましたが、「もういいよ、仕方ないよ、忘れよう」ということになり、実際忘れてしまっていました。中学生は忙しい。
*
それから何十年も経って・・・
数年前たまたま、家を建てて越したというママ友の新居(電車で二駅)に招かれて行ったのですが、その家の2階の窓から外を眺めているとき、そのお宅が、例の洋品店から割と近いということに気づいたので、帰りがけに行ってみたんですね。日も暮れたことだし・・・と。
路地の雰囲気は当時のままでしたが、洋品店はありませんでした。
でも、確かこの辺では?と思った場所に、雑草が生い茂る空き地がありました。
ここに違いないと思いましたが、確かめようがないし、なんだか身体がグラつくし悪寒がする・・・
もう帰ろうと思ったその時、奥の方に立派な巨木が生えていることに気づきました。
その木には、大きなウロがありました。
ウロ・・・「となりのトトロ」でメイちゃんが落っこちてトトロに出会うことになった 穴ボコ です。
あのウロに近づいて覗き込んだら、きっと穴ボコに吸い込まれて時空を超えてどこかへ行ってしまうんじゃないかな・・・
なんとなくそんな気がして、ゾワゾワっときて、その場を後にして帰ってきました。それきりです。
ほんとになんだったんだろう、あの洋品店、あのお婆さん。そして今でもアルバムの写真を見たらちゃんと写っているベスト・・・。
辿り着けたり辿り着けなかったりした不思議な洋品店の話でした。
〈おしまい〉
