BLOG

見えていないもの ~映画『怪物』

私たちはみな「怪物」を飼っている。
その「怪物」がどんなものであるかは自身では捉え切れていないことが多いし、他人が見出して教えてくれるものであるともいえるのだけれど、私たちは自分の中に棲んでいる「怪物」が、狭量で残酷で、無自覚なまま人を傷つけてしまうことを理解しているだろうか…、そのことをこの映画の観客席で、私は問われたし考えさせられました。

この作品の脚本を書いた坂元裕二さんは、インタビューの中でこんなことを言っています。

「私たちが生きているうえで見えていないものがある。それを理解していくにはどうすればいいのか、そういうことを物語にしたいと常々思っていました。」

作品中、二人の少年が彼らの秘密基地で向かい合い、自分の額に生き物のカードを掲げ、相手に、その生き物の特徴を尋ねて答えてもらう…という遊びをします。インディアン・ポーカーのようなゲームです。
相手の反応や答えで、自分のカードを想像するわけですが、”相手には見えているけれど、自分には見えない” というこのゲームの意味合いには、二人の少年の置かれている実際の環境と 彼らが必死に守っているように思われた彼らの まだ脆いアイデンティティを思って、ぐっときました。なんて切ないシーン…。

この作品は、私が最も好きな作家二人・・・映画監督の是枝裕和さんと、脚本家の坂元裕二さんが初タッグを組んだという、ファンの私にとっては奇跡みたいに思える待ちに待った作品でしたが、昨晩、ひとりシネコンに車を走らせ、観てきました。

是枝さん、坂元さん。彼らに共通しているのは、ずっと「こども」(その多くは 捨てられたこどもだったり傷つけられているこどもです)を繰り返し描いてきたことでしょう。
小さい弱い者に徹底して寄り添うけれど、それそれに事情のある「大人たち」にも、いつも希望、救いを見せてくれる・・・。
そんなお二人が今回、2時間の映画に描いたものもまた、静かに胸を打つものでした。

私たち、いろいろあります。一生懸命生きています。クセ強かったり狡かったり弱かったり間違ったりしますが、みんな精一杯です。
そのことを改めて思わせてくれて、にんげん、愛しいなぁと感じさせてくれて、祈りみたいな気持ちで満たしてくれる作品でした。

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP